空色匂玉 荻原規子 著
神々が地上に存在した古代の日本「豊葦原」を舞台に、光と闇のせめぎあいを描くスケールの大きなファンタジー。「水の乙女」と「風の若子」が、戦乱のなかで、成長する様子、又、二人の運命的な恋が、描かれる。古代日本、その時代を生き抜いた人々が鮮やかに浮かび上がる。

ちょっと長めのショートショート  恋がいっぱい 星 新一 理論社 
年齢問わず楽しめる本。(どこに楽しさをみつけるかは別として)何気ない日常の中に人生の機微がみえかくれする。ちょっとした言葉、又、ちょっとした心の持ち方で、これほど人間て操られてしまうのかな、と改めて「うーん」とうなってしまいました。SFの要素もあり、子供たちも一気に読みきってしまうでしょう。

秘密の道をぬけて    ロ二―・ショッター 著    あすなろ書房
「自由」であることがあたりまえで、その素晴らしさを実感する、なんていうことが、皆無になっている現代において、今から百五十年ほど前の南北戦争は、遠い昔のこととなっている気がします。人間が人間を奴隷として扱う・・・肌の色が違うだけで・・・なんとも恐ろしい人種差別が実際に、それも、たった百年程前まであったのです。今も、その名+++残がくすぶっている、という話もきいたことがありますが・・・。この物語は、この時代、奴隷制度に反旗を翻し、奴隷一家に救いの手をさしのべた白人一家の物語です。この中に出てくる「地下鉄道」とは、実際に存在した、逃亡奴隷を自由の地へ逃がした秘密組織のことです。十歳のアマンダが両親を助けて、自由の世界に導く為、一生懸命活躍する様子が描かれています。

爬虫類の部屋にきた    レモ二―・ス二ケット 著  草思社
副題として「世にも不幸なできごと」 前書きには「無邪気で陽気な物語を期待して、本書を手にとった読者諸兄、残念だが、この本はご期待には添えない。−中略―こうした悲劇的な出来事を記録するのは作者たる私の定めだが、皆さんは、この本を棚にもどして、もっと気楽な本を探してくださっても一向にかまわない。」とある。なんだか、出鼻をくじかれたような気分となり、一体どんなにか、気の滅入る本なのだろうと、いざページをあけてみると、あにはからんや、随所に作者のユーモア表現がとびだし、おもわず、笑ってしまうくだりもあった。気分が沈んだときによむのもいいかもしれない。

大どろぼうホッツェンプロッツ プロイスラー著
ある日カスパールのおばあさんが、ベンチに腰かけて、新式のコーヒーひきでコーヒーをひいていたときのこと、目の前に黒ひげをはやした、かぎ鼻の男が表れ、おばあさんの大事なコーヒーひきをとりあげたのです。この男こそ、大どろぼうホッツエンプロッツだったのです。物語は、この大どろぼうをこらしめるため、カスパールとその友達ゼッペルが、大活躍する姿を描きます。大魔法使いや、妖精も登場し、ファンタジックでユウモアにとんだ展開が、大きな魅力となっています。

ハッピーバースデー 青木和雄著   
「人間」とは、人と人の間とかく。この世に生をうけた瞬間から、人と人との間で、人間としていきるのだ。現実の世界には、肉体的、精神的な苦しみの中で、生きながら、死んでいく人もいる。明日にも消えそうな命を必死でともしている人もいる。雨にぬれている人に傘を差し向けられる人の、いかに少ないことか。生きるとは、何だろう。目の前の苦難をのりこえて、みえてくる何かではないか。主人公あすかは、ママと兄の「お前はうまれてこなければよかったな。」という一言から、声を失ってしまう。祖父母の愛と自然のなかで、回復したあすかは、心にちかうのだ。「自分は自分としていきる。」と。「人は変わるために学ぶのだ。」と。「生きる」ことに感謝したい。そして、人と人とが支えあえる世の中になってほしいと心から思った。


ライオンと魔女       

ナル二ア王国物語で映画化されたフアンタジー。四人の子供が、疎開先のある教授の家で、大冒険をくりひろげる。古い洋服だんすにかかっている毛皮の向こうが、あるはずみでナル二ア王国につながるのだ。兄弟四人は、ナル二アを冬の国にし、勝手な振る舞いをする魔女と、ライオンのアスランと共に戦い、王国を平和へと導くのである。展開される一こま一こまでわくわくさせられ、おおいに想像力が刺激される。著者の語り口も優しい。

バッテリー 1・2・3・4 あさのあつこ 教育画劇
「おれには、何も関係ない。弟の事も、じいちゃんのことも。ただ、ボウルを投げるだけだ。」ピッチャーとして、絶対的な自信をもつ原田巧。中学生になる年、両親の故郷である瀬戸内に引っ越してきたところから、物語は始まる。元野球部監督のじいちゃん、また、母のおさななじみの子、永倉豪、その仲間たちとの出会いにより、巧が、野球に対し、生きることに対し、揺れ動きながら、何が、正しいのかを模索する。あれほど自信のあった制球、コントロール。様々な人間関係のなかで、自己コントロールが、できなくなり、自信がくずれた時、巧は、くずれおちる。
子供、中学生の視点、感性での語り口。ともすれば、大人の視点でしかものをみられなくなっている私達大人が、あるいみで、警鐘をならされているように感じる。親たる私たちがよんでみるのもおもしろい。


その他お勧めの本
・ルドルフとイッパイアッテナ
・ルドルフともだちひとりだち
・ルドルフといくねこくるねこ
・なん者ひなた丸シリーズ      斎藤 洋 著

・エルマーの冒険
・エルマーとりゅう
・エルマーと六ぴきのりゅう
・ダレンシャン  1から4     ダレンシャン 著  
                                           


ハッピーノート 草野 たき著 福音館書店
読後著者はきっと若い世代だろうと思った。草野たき氏。1970年生まれ。「透きとおった糸をのばして」で講談社児童文学賞受賞。同作で児童文学新人賞受賞。その他の著書に「猫の名前」がある。「野ぶた。をプロデュース」(白岩玄著)で、着ぐるみを着て生きる
若者像にショックをうけた私であるが、またまた、正直に自分を語れない、嘘ならどんどん言える、ぶつかりあうのが怖い、という、小学6年生の主人公にショックをうけた。虚像、バーチャルな世界は、ともすると、本音、生の自分を出す、ことに対し、臆病にさせる。昨今、頻繁に伝えられるショッキングな事件もこの延長とみることができるのではないか。疲れた子供の姿をみるのは、辛い。


ラビーニアとおかしな魔法のお話 ビアンカ、ビッツオルノ著 小峰書店

イタリア児童文学のロングセラー。まず、マッチ売りの少女が登場。(えっ、あの「マッチ売りの少女」と関係あるの?)この少女は、ラビーニア。クリスマスイブの夜、妖精から魔法の指輪をもらうのです。(えっ、あの「魔法の指輪」と関係あるの?)その指輪は、何かをみつめながらまわすと、それを、ウンチにかえることができるのです。(えっ、あの「まなざしの力」に関係あるの?)指輪の力でなんでも思いをかなえられることを知ったラビーニアは、幸せになれるのでしょうか?是非御一読を。小学校低学年から充分楽しめます。

夏の庭 湯本香樹実作  徳間書店
 
河辺、木山、山下三人の小学六年生が、等身大の言葉で、話を紡ぐ。山下が、初めて祖母の葬式にたちあい、三人が、それがきっかけで、人の死に対する興味を抱く。近所の一人ぐらしのおじいさんをみはるのだが、次第におじいさんは元気になり、三人は、一緒に、おじいさんの家の庭の手入れを始めた。おじいさんを通して、三人は、多くのことを学ぶのだが、サッカーの合宿から帰ってくると、おじいさんは、横たわったまま動かなくなっていた・・・。児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞、ボストン、ブローグリホーンブック賞、等受賞。

ながいながいペンギンの話 いぬいとみこ 理論社
 これは、せいたかのっぽの「ながいながいペンギン」の話ではなくて、南極にすむペンギンのふたご、ルルとキキのぼうけんについての、「ながいながい」話です。−作者
ペンギンが大好きな作者が様々な空想をめぐらせながら、厳しい南極大陸で、ペンギンたち、また、その他の生き物たちが必死に生きる姿を描いています。お父さん、お母さんの子供に注ぐ豊かな愛情、ひよっ子のルルとキキが冒険を通してたくましく成長する様子、クジラとりのセイさんら人間とのやりとりなどをとおし、「さあ、どんな嵐がきても、まけないでいこうね。」という作者のエールが、きこえてきます。

クラバート  ブロイスラー作  偕成社
 表紙は、少年の顔をしたカラスの絵。はたして、クラバートとは、一体何・そんな思いで、ページをひらいた。14歳の少年クラバートは、ある日奇妙な夢をみる。2日も3日も繰り返されるその夢に従い、荒地の水車馬の見習いとなる。そこでは、重労働が待ち受けており、親方の厳しい管理下におかれるのだが、魔法を習うことができた。3年のうちにいろいろな事情がわかってくる。自由と一人の少女との愛を勝ち得るため、生死をかけて親方と対決する日がやってくる。
著者ブロイスラーが、少年のときに出会った「ドイツ伝説集」の中の「クラバート伝説」が下敷きとなっている。執筆中、一度挫折し、この絶望の中で、「大どろぼうホッエンプロッツ」シリーズがうまれた。しかし、クラバートへの夢を捨てきれず、遂に、1971年、発表されたのである。人生の重要な問題とかかわったおもしろさをもつこの「クラバート」が、各方面から絶賛をあび、広い年齢層で読まれているのも、充分うなずける。

北極のムーシカミーシカ いぬい とみこ作 理論社
 双子の北極熊のムーシカ ミーシカが、北極という厳しい自然の中で、「生きる」ため、何が必要かを学びながら、元気に育っていく様子が、愛情あふれる表現で描き出されます。
弱肉強食、食うか食われるか、自然の掟であることはわかっているものの、子どもの純真な心で納得するまでの葛藤、又、恐ろしい人間を描くことによる、自然破壊への警鐘、等大きなテーマをもっています。が、こぐまの愛らしい姿が、重苦しさをとりはらい、ごく自然に「生きる」ことの素晴らしさを伝えています。小学校低学年から、充分おもしろく読めると思います。

甲子園への遺言 門田 隆将 講談社
 もちろん、イチローや田口が大リーグで活躍していることは誰でも知っているでしょう。でも、この二人をプロの世界で、コーチを同じ人がしたと知っている人は少ないのでは。伝説の打撃コーチ高畠導宏。このコーチが高校野球の指導を目指し、プロ野球のコーチから転進する話です。こんなにもすばらしい野球人がいたことを、たくさんの人に知ってもらいたい。


るすばん先生   宮川ひろ ポプラ社
小川先生が赤ちゃんをうむため休んでいる間、るすばんをしにきたるすばん先生こと木村先生。二年生の光男は夏休みの宿題を一つもしていなかったのできっとしかられるだろうな・・・・と思っていたのに、るすばん先生は・・・。人間関係の希薄さがさまざまな問題をひきおこしている現代、なんともほっと心安らぐお話です。本当にこんな先生がいたら素敵だと思います。人間の原点である愛、優しさが優しい文章からあふれるように伝わってきます。小学校三年生頃から充分に読める本です。

よだかの星  宮澤賢治  福武書店
実にみにくい鳥であるよだか。
みにくいというだけで皆からいじめられ、仲間はずれにされ、鷹からは「市蔵」という名前にかえろ」とまで言われます。夜になると、よだかは口を大きくひらいて空をよこぎります。小さな羽虫、甲虫を食べるためです。でも、よだかののどであばれる虫をのみこむ時、よだかは大声で泣き出すのです。(ああ、かぶと虫や、たくさんの羽虫が毎ばん僕に殺される。そして、そのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。・・・)美しいさし絵と平易な文体でつづられるのですが、その行間からは重いテーマがみえかくれしている気がします。親子でじっくり読むのもいいかもしれません。

時の石 那須 正幹 文渓堂
十二にわたる小編に連続して登場する「白い石」。どの話の中でも「ほんのりあたたかい石」であり、いろいろな人の手にわたっていく。「お守りなのかなと思いきや、前後の1話の中で「白い石」実は・・・・であることがわかり、一種のなぞときの気もちになる。読み始めると一気に読みきってしまえる本。

犬になった少年  イエスならワン   アラン・アルバーグ作 偕成社
 ある日突然犬に変身してしまうなんて信じられないよね。でも、少年エリックは、急に犬に変身したり、元に戻ったり・・・。お父さん、お母さんにも追い払われるし、のどが渇いても言葉も出ないし・・・。困ったエリックは親友のロイに相談し、ロイと二人で犬に返信したときの合図を決めたりするのです。
 読みおわったあと犬と目が合うと、「この犬、もしかしたら人間だったのかしら。」なんて気分になったりします。なんともホットでユーモラスなファンタジーです。

野村ノート  野村克也 小学館
 南海ホークスの名捕手、そして、当時弱小球団であったヤクルトスワローズを三度の日本一へと導いた名監督野村克也氏が記した一冊。五十年以上も野球界と関わった野村氏が監督としてのあり方、またその原則をまとめあげた本である。その中には人間として「生きる」とはどういうことか「仕事をする」とはどういうことか、が描かれており、野球ファンならずとも、もう一度自分のあり方を考えさせられる一冊である。


「だんごをなくしたおばあさん」 小泉八雲 大日本図書
 おだんご作りが大すきなおばあさんがいました。
 わらう時は「テヘヘ」・・・なんとゆかいなおばあさんでしょう。でも、このおばあさん、ある日おにのうちにつれていかれ、おにのごはんのしたくをすることになりました。
 おかまにひとつぶごはんをいれ、まほうのしゃもじでかきまぜるだけで、おかまいっぱいのごはんがたけちゃう・・・おにはいじわるなんかしなかったけど、おばあさんはしゃもじをもってにげちゃった。さて・・・ゆかいなさし絵でたのしめる一冊です。


天使のナイフ   薬丸 岳
本年度江戸川乱歩賞受賞作である。犯罪被害者と少年法に立ち向かいながらも、加害者の視点から、罪、構成とはなにかを問う。
昨今犯罪がやたらと多い。その要因は多種多様であろうが、少年法により守られる部分を逆に悪用するケースも多いと聞く。少年法が制定された時代と今の時代は大きくかけ離れているにもかかわらず、相も変わらず旧態依然とした対応が続く。これでいいのだろうか。
人と人との錯綜の中で、事件の謎解きが始まる。視点の変化により様々な角度から人生模様が描かれる。意外な結末が待つ社会派ミステリー。久々に推理小説の醍醐味を堪能した。


野ブタをプロデュース 白石 玄
 現代っ子の語り口で始まる現代っ子感覚の文章。中円世代としては、違和感を感じながら読み進んでいくのだが、だんだんとなるほど〃と思われるようになるのだ。なるほど、これが現代の「ネット世代」か。ネットで知り合ってものの三十回ほど通信しあい一緒に自殺する。なんとも信じられない現象なのだが、現代の若者の「人と人とのつながりがこういうことなのだ、と納得させられた。作者は1983年の生まれ。期ぐるみを着てつかず離れずと独活良いところで接点を見出すという。普遍的な人間関係も上手にポイントとして押さえつつ現代の即年を切り開いて見せる手法はなかなかと思う。

「永遠の仔」 天童荒太 幻灯舎
「生きていてもいいんだよ。お前は…生きていても、いいんだ。本当に、生きていても、いいんだよ。」最後の一節である。
 自分の「生」が受け入れられない状況の中で幼少時をすごしたジラク(有沢梁平)とモウル(長瀬笙一郎)、そして優希。17年前の「聖なる事件」をひきずりながら大人になった三人は、看護師、刑事、弁護士となって再会する。親から受けた暴力、性的虐待、放任が三人それぞれの心を自責の念へと追い込み、自分の存在自体を否定してしまう。お互いを認めあうたった一言“あなたは悪くない”“きれいだ”そして“生きていてもいいんだ”ただそれだけが三人の心を救う。人間はひとりで生きられない。「生の原点」を問う、心に残る一冊。

「クライマーズ・ハイ」 横山秀夫 文芸春秋社

「下りるために登るんさー」この言葉を主軸としたストーリーが展開される。北関新聞社編集部の悠木和雄が日航123便ジャンボジェット機御巣鷹山墜落事件の全権デスクとして奔走する姿を描く。記者として、また家庭人として、そしてまた山を追求する者として、一貫して悠木の心を支配する言葉、それが「下りるために登るんさ―クライマーズ・ハイ」。
悠木のバックにある人間模様、新聞社という組織、社会の断面が心地よいテンポで描き出される。一気に読んでしまう一冊である。

「17歳 モット自由ニナレルハズ」 小倉千加子 PHP

授業についていけなくなってきた。勉強と部活の両立なんて無理!みんなと進路が違うんだけど・・・。人との接し方がわからない。悩みすぎる自分に悩む。生きる意味ってなに?
等、17歳のほとんどが経験するであろう悩みに対し、医学博士であり、心理カウンセラーでもある著者が噛み砕いた言葉で悟し、指南する書。大人が呼んでも視点が楽しい。

「知っているつもりで説明できないニュースの言葉」 池上 彰 幻冬社

時代の変化と共に、ニュースに登場するキーワードも変わってくる。新聞を読みながら、テレビを見ながら、しばし「これって何?」と思い留まることも多いだろう。耳慣れない言葉もこの本を読むことにより、かなり身近に感じられるようになり、「なるほど!」とおもしろさが倍増する。是非御一読を!

ハリーポッターと賢者の石 K.ローリング 静山社
 この本は「ハリーポッター」シリーズ全七巻の第一巻に当たるものである。魔法使いの子として生まれたハリーポッターは、生まれてすぐに両親を亡くし、孤児となってしまう。そして、幼少期を魔法が大嫌いな人間のもとで過ごした後、「ホグワーツ魔法魔術学校」へ入学することが決定する。
 現代を生きる我々には想像のつかないことが次々と起こるが、文章が非常に読みやすく、場面ごとの状況がイメージしやすくなっている。また、物語の中で、伏線のしき方が絶妙で、読み進むにつれてハリーの壮絶な過去が明らかになってくることもあり、一度読み始めたら止められない作品といえるだろう。
 著者のJ・K・ローリングは、シングルマザーで、コーヒー店の片隅でたった一杯のコーヒーを注文して夜中まで粘り、このシリーズで数々の賞を総なめにした。次巻への期待を持てる逸作である。


「蛇にピアス」 金原ひとみ 集英社
 この本は、いわゆる「アンダーグラウンド」の世界に生きる若者達を描いたものである。主人公のルイは、あるクラブで出会った男、アマの影響で「スプリットタン」を始める。スプリットタンとは、下にピアスで穴を開け、少しずつ拡張し、最終的に舌先を二つに裂くというものである。ルイの舌先の穴が大きくなっていくにつれて、アマとの関係、またピアスショップの店員、シバさんとの関係も深くなっていき、その様子がショッキングに描かれている。
 この本の著者である金原ひとみは、処女作であるこの作品ですばる文学賞及び芥川賞を受賞した。青春時代を新宿の盛り場で過ごしたというが、彼女の父はその才能をいち早く見抜き、彼が教授を務める大学の講義に紛れ込ませていたという。次作が楽しみである。